育成年代において、どんな対戦相手でも自分たちの戦い方を貫いて負けても良しとするのか、それとも勝ちにこだわって相手によって戦い方を変えるのか。これは、あるJ下部のコーチ、監督と議論になったことがあるテーマです。私の考えと、実際に格上のJ下部チームを相手に戦い方を変えて勝利した試合の話を振り返ります。
J下部の監督との議論で見えた考え方の違い

色々な意見、考えがありますが、私の意見は当然相手によって戦い方を変える必要があるし、その準備は入念に行う、というものです。これはJ下部の方とは全く真逆の考え方でした。J下部の監督さんはあくまでも自分たちの戦い方を貫くと言っていました。
それはそれで否定はしませんが、答えがないだけに難しい問題だと感じています。勝てば内容度外視と思われがちですが、私はそうは思いません。サッカーの戦術は一つではなく、戦い方はたくさんあるからです。
ヨーロッパのサッカーに見る多様な戦い方


ポゼッションスタイル、フィジカルサッカー、縦に早いスタイル、中盤を飛ばして蹴るスタイル、守備重視でカウンターを狙うスタイルなど、ヨーロッパのサッカーを見ているとスタイルは様々です。それを育成年代からでも教えるべきだと思っています。
特に私が注目したのはアトレティコ・マドリードのシメオネのスタイルです。シメオネは対戦相手によって戦い方を変えています。バルセロナと戦う時は完全にベタ引きでペナルティエリアに11人が入って守備重視のカウンター狙いになり、それ以外のチームとやる時はポゼッションスタイルが多くなります。ヨーロッパのトップでさえ相手によって戦い方を変えているわけですから、育成年代でもやってもいいのではと考えています。
街クラブが抱える現実的な事情



育成年代の子どもたちにも、いろいろな戦い方があることを学ばせるべきだと思っています。これはカテゴリーやチームが変わると監督から言われること、求められることも変わりますし、柔軟な考えを持つべきだからです。また、小さな街クラブは内容も大事ですが、勝たないと人が入って来ないという死活問題があります。
J下部は負けても「J」という看板がありますから、優秀な選手は待っていれば勝手に入ってきますが、街クラブはそんな悠長なことは言っていられません。内容3、勝ちのこだわり7くらいのバランスでやらないといけないと考えています。
格上のJ下部チームとの一戦

その勝ちにこだわったエピソードを紹介します。私がU15年代の監督をやっていた時の話ですが、2017年6月にクラブユース選手権があり私はある県の街クラブの指揮をとっていました。準決勝まで勝ち上がり、次の対戦相手が完全に格上のJ下部チームでした。
個でも組織でも勝てない相手で、下馬評もうちが負けるだろうと思われていました。当然、相手はポゼッションサッカーで試合を支配してきます。同じ土俵ではほぼ勝てないのはわかっていたので、私は同じ土俵を避けて、準々決勝までの戦い方とは180度変えることにしました。
シメオネをイメージした守備重視の戦術

それはシメオネをイメージして、完全に守備重視のカウンター狙いのサッカーを組み立てるというものでした。練習からアトレティコとバルセロナの試合を毎回見せて、そのサッカーの説明をして子どもたちにイメージさせました。
子どもたちには、このサッカーはチャンスがあまり多くないから我慢が必要で、攻撃はボールを取ったら縦に早く、取った後の5秒を強く意識させました。守備では全員自陣に戻らせて、ペナルティエリア内に全員入らせました。
終盤、点数が入らなかったら相手は必ず焦ってくるしミスも起こしやすくなる、その時がチャンスだと伝えていました。またこのサッカーでのチャンスは、カウンターかフリーキック、コーナーキックが最大のチャンスだとも伝えていました。
後半アディショナルタイムに訪れた決勝点

結果、後半のアディショナルタイムにカウンターからコーナーキックを獲得し、このチャンスで長身DFのキャプテンが頭で押し込んで決勝点となりました。私たちが優勝候補を倒した試合でした。ボール支配率はおそらく1対9、限りなく0に近かったと思います。
終始守備ばかりでしたが、こんな戦い方でもサッカーは勝てるという経験をできたことに子どもたちは驚いていました。試合中、危ない場面、失点を覚悟した場面は何度もありましたが、私としてはプラン通りに試合が進み、かなり自信になった一戦でした。
色々な戦い方を経験させることの価値

このように、ボールポゼッションだけがサッカーではなく、色々な戦い方を子どもたちに経験させることは大事だと思っています。格上相手にどう戦うか、限られた武器でどう勝機を見出すか、そうした思考を育成年代のうちから経験させることは、将来どんなチーム、どんな監督のもとでプレーすることになっても生きてくると考えています。一つのスタイルしか知らない選手より、状況に応じて頭を切り替えられる選手の方が、上のカテゴリーに進んでからも長く活躍できると感じています。


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